社会保障費の増大が調剤薬局の経営に与える影響を想像してみました!
2025年、医療費と介護費の総額は約74兆円と推計されています。2017年の税収は約58兆円ですから、この金額には驚かされます。そして、この社会保障費の伸び(自然増)に対し、国は毎年さまざまな方法で調整しています。例えば、薬価の改定や介護保険料の引き上げ、医療材料の公定価格の引下げなどで自然増を抑制しています。
2040年における社会保障費の景色とは?
2040年では人口ピラミッドがさらにイビツなものとなり、国民の3人に1人が65歳以上となります。そしてこのとき、国は社会保障費の総額は190兆円という推計を発表しています。これは2018年の6割り増しです。
当然のことですが、高齢者数の増加で医療費や介護費は伸びます。2040年度の社会保障給付費の分野別内訳は「年金」が73兆円、「医療」が68兆円、「介護」が24兆円、「保育(子育て)」が13兆円で、2018年度に比べると、「年金」は1.3倍、「医療」が1.7倍、「介護」が2.4倍、「保育」が1.6倍になります。
重要なのは医療と介護の費用推計は、今後行われる適正化を前提とした数字であることです。
足りない特養!実は空きが1割だった…
特別養護老人ホームは自治体からの補助があるため、民間の有料老人ホームより安価な施設がほとんどです。その待機者は全国で約30万人いるとされています。この理由は高齢者が増えたため、施設が不足しているからだと考えられていました。が、実態は違うようです。
日本経済新聞によると、東京都神奈川、千葉、埼玉の1都3県における特養待機者は約65,000人。一方で、特養のベッド数は138,000床ですが、そのうち約6,000床と待機者の9%以上が空いています。また、全国の空きは17,000床にも上ります。
これも「人手不足」が原因だと容易に想像できます。
2019年10月、勤続10年の介護福祉士は賃上げが確定
今後、介護が必要な高齢者はどんどん増えます。一方で、介護離職は年間で10万人に上ります。そのため、先のように特養のニーズがあるのに人手が足りないからサービスが提供できません。そのため、国は重い腰をあげました。
介護離職が多い理由の一つが低賃金です。一般に介護職員の給与は他業種と比べて10万円ほど低いとされています。そこで政府は、約1,000億円規模の財源を投入し、勤続10年以上の介護福祉士に平均して月額8万円相当の賃上げを行うことと閣議決定されました。
この賃上げの実施は2019年10月となります。
外国人労働者の受け入れ!
団塊の世代が後期高齢者となる2025年、日本では介護職員が約38万人不足すると推計されています。介護福祉士の賃上げという閣議決定も、こういった差し迫った理由があるからです。ですが、それでもまだまだ介護職員は足りません。そこで政府は2008年よりインドネシアやフィリピン、ベトナムから看護師や介護士を受け入れてきました。
他業種と違い、看護師や介護福祉士になれば事実上の永住が可能!
2018年12月8日、「外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理及び難民認定法(入管法)」が可決・成立しました。この法律により外国人労働者はより長期にわたる在留資格を得ることができます。しかし、今回の法律に「介護」業種はありませんでした。
その理由もカンタンで、すでに看護師や介護士の資格を得た外国人労働者は事実上の永住が可能になっているからです。看護3年、介護4年の滞在期間の間に、日本の看護師、介護福祉士の国家試験を受験して合格すれば、「専門的・技術的分野」の在留資格で、更新回数の制限なく在留が認められています。
医師と看護師、介護士の対人業務の量と質は?
高齢者が増えるにあたり、看護師や介護士の確保は必須です。それも当然で、看護師や介護士の対人業務があって初めて医療や介護は成り立つからです。もちろん、これは医師も同じです。一方で、薬剤師はどうでしょうか?
- 医師:診察や処置
- 看護師:処置
- 介護士:介助
対人業務の質という点では、明らかに薬剤師の出番はありません。
今後、在宅での薬剤師の関わりは増えることは予想されます。また、調剤報酬も在宅関連の報酬が手厚くなっていくことでしょう。しかし、それでも対人業務の質という点では、関連他業種と比べて明らかに必要性が薄いのが薬剤師です。
診療報酬や介護報酬というパイの奪い合い
人口減少による市場の変化が調剤薬局に与える影響とは?に書いたように、今後、人口減で患者数が減り、薬局同士が少なくなった患者を奪い合うことになります。集客の努力もしないで食べていた時代は、もうすぐに終わります。そして、集客に知恵を使えない経営者の薬局は淘汰されていきます。
診療報酬や介護報酬も同じです。
医師や歯科医師、薬剤師、看護師、介護士が限られた報酬を奪い合うことになります。
厚生科学審議会 (医薬品医療機器制度部会)の議論!
2018年7月5日の厚生科学審議会の医薬品医療機器制度部会において、出席委員から薬剤師に対して厳しい意見が飛び交ったことはご承知だと思います。
- 日本医師会副会長中川氏:「医薬分業自体を見直す時期に来ているのではないか。院内処方に回帰する議論があってもいいのではないか」
- NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長山口氏:「医薬分業率は上昇したが、そのメリットをあまり感じられていないことが問題なのではないか」
- 「特定非営利活動法人ネットワーク医療と人権」理事花井氏:「極論すれば、薬剤師が医療にとって必要かどうかが議論になっている」
逆に、医師や看護師、介護士などに対する厳しい意見など聞いた覚えはありません。
まとめ
- 介護福祉士の給与は閣議決定をしてまで上げることにした
- 看護師や介護福祉士の資格を有する外国人労働者は事実上の永住可能な上、待遇も日本人と同じ
- 薬剤師の対人業務の質は、医師や歯科医師、看護師、介護士と比べるまでもない
- 限られた予算を、これらの業種で奪い合うことになる
- 民間委員から薬剤師に対して厳しい意見が飛び交っている
こういった事実を前提に、今後の調剤報酬改定を想像してみましょう。
2018年度の調剤報酬改定では「かかりつけ薬剤師指導料」が2期目を迎えました。また、「基準調剤加算」(32点)が廃止され、「地域支援体制加算」(35点)が新設されましたが、それぞれの算定薬局割合は次の通りです。
- かかりつけ薬剤師指導料:53%
- 地域支援体制加算:35%
「地域支援体制加算」においては、事実上「調剤基本料1」の薬局以外は算定ができない。そう言い切っても、それほど言い過ぎではないほど厳しい施設基準が設けられました。
今後の調剤報酬改定でもこういった流れが続くことは想像に難くありません。なぜなら、他の専門職の人の方が、今後ますます必要になるからです。この事実を直視し、薬局経営を見つめ直してみましょう。
【重要】
調剤薬局の収益=患者数×調剤報酬+薬価差益です。この内、調剤報酬と薬価差益は今後も一方的なルール変更が繰り返されますから、コントロールができません。一方で、患者数は経営努力次第で増えることもあれば減ることもあります。2019年、そんな経営者の力量が試される時代がやってきました。
この大きな経営環境の変化の波に乗り、大きく新規の患者数を増やそう。そう思われる方は、「キャッシュレス戦略セミナー2019」にご参加ください。
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